エンゼルランプ










「敵が少ないうちに、水城レンバールは落とす。行くぞ」
エフラムは臆すことなくきっぱりそう決断した。
まさに自分たちがついていくにふさわしい君主だ、とカイルはこういう姿を見るたびに思う。
これがもし、力のない頼りない君主であったなら、白旗を上げて降伏、更には逃げ出すかもしれないのだ。
それを、このエフラムという人物――まだ年端もそうそういかぬこの青年は、立派に決断し飛び込むのだった。


(……それなのに、)
ちらり、とカイルは横を見る。
「まあ多勢に無勢、ですけどね。俺達とエフラム様さえいりゃあ、大丈夫ですよ!」
へらへらと笑い、あまり危機感を感じさせない相棒。
こういうのが持ち味ともいえるが、こんな死と特に隣り合わせの戦場でとる態度とはとても思えなかった。
(全く、こいつと来たら!)
エフラムは軽く笑って、そうだなと答え、自分の武器の手入れを改めて始め出していた。
オルソンも頷き、持ち物を確認して愛馬の様子を見ている。


「……はぁ」
「なによ、カイル?辛気臭い面してると命持ってかれちゃうよー?」
「誰のせいで辛気臭い面になると思ってる!」
「…俺のせい?」
「当たり前だ!」
ばっさりと言い放って、自分も手持ちの武器を研ぎ始めた。
「あのね、俺だっていつもこうだけどさ」
「煩い、お前は仕度はいいのか」
「うんばっちり。いつも手入れは早いから」
「……」
こういう時はやたら早いからよく分からない。


「…俺だって、本当は怖いんだよ」
「!」
ずんとトーンが落ちた声に、カイルはばっと顔を上げた。
先程までの明るい軽そうな表情はどこへやら、とても不安そうに顔を崩したフォルデがいた。
「お前…」
何だか泣きそうな、それでいて無理に笑顔を浮かべようとしている、そんな表情で。
「俺、怖いんだよ。俺が死ぬことよりも…エフラム様や、何よりお前が死んじゃったら、って…」
自分の大切な人にもう会えなくなることが、何よりも苦しい。
「何だかそう考えると…胸が締まっちゃってさ…。息苦しく、なってくる」
胸を押さえて、辛そうに顔を顰めるフォルデ。彼の滑らかな金髪に当たる光が綺麗だった。
それと同じくらい、彼の金の瞳が輝いている。
「…フォルデ」
カイルは思わず、彼の唇にがばっとキスをする。
「!……ん」
キスはふっと一瞬紡がれて、そっと離された。
「…カイル」
「息継ぎなら、俺がいくらでもしてやる。エフラム様も、お前も。俺が守る」

俺が、守りたいんだ。
何にも代えがたい、大切な存在。頂に、傍らに、在る存在を。

「うん。俺も、エフラム様や、お前を、守りたい。守るよ」
何に変えても。
「そして、エイリーク様たちに、会おう」
ルネスの愛しい仲間たちの元へ、再び会うまで。


「準備はいいか、皆」
皆が頷く。とはいっても残った三人の騎士だけ、であったが。

「行くぞ―――――!」

頼もしき主君の声の元、彼らは駆け出す。






(…なあ、カイル)
(なんだ?)
(この戦いが終わって、まだ生き残ってたら、さ。お前、抱いてくれよ)
(ぶっ!!…本気か?)
(うん?勿論。お前が好きだよ、カイル)
(……ああ…余計に死ねなくなった、な)












End


完全オルソン影。
彼…好きなのにあっさり寝返られてしまうのが悲しい。うう。
とりあえず聖魔赤緑ばんざーい、てことで。 2013,7,8









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